こおりやま悠々雑事記

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大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の好評ぶりから、10年前に大河史上最低視聴率(当時)に終わった「平清盛」を考える。

”戦国と幕末以外は受けない”ジンクスを覆した「鎌倉殿の13人」

2022年大河ドラマの「鎌倉殿の13人」は、番組終了直後に毎回Twitterのトレンドワードで世界一を記録するなど好評を博し、近年でも指折りの成功作と言ってよいでしょう。

奇しくも、ちょうど10年前の2012年の大河ドラマ平清盛」も、平安末期のリアルな武士の世界を描いた作品でした。

しかし、「鎌倉殿の13人」とは違い、「平清盛」は視聴率で大苦戦。

全50話中、視聴率一桁台を9回記録し、全話平均視聴率12%は「いだてん 東京オリムピック噺」に抜かれるまで大河史上最低視聴率をたたきだしてしまいます。

 

歴史好きの筆者ですが、とくに鎌倉時代が一番好きな時代ということもあり、中世武士の時代を切り開いた武将・平清盛の生涯を描いた本作は、最もお気に入りの大河ドラマの一つです。

しかし放送当時は低視聴率ばかりが取り上げられ、スポーツ紙や週刊誌でも散々な書かれよう。

「自分が好きならそれでいい」とは思いながらも、やはり自分が面白いと思っているドラマの評判が芳しくないのは、気分の良いものではありません。

平清盛」が視聴率的に成功しなかったためか、その後の大河は6作連続で戦国時代と幕末の作品を繰り返し、オリンピックを題材とした「いだてん」が低視聴率に終わったことから、もう金輪際、大河ドラマで戦国・幕末以外の時代が扱われることはなかろうと諦めておりました。

 

そんな中、2020年1月に、「鎌倉殿の13人」の制作が発表されたときは、驚きと喜び、そして大きな不安を抱えたものです。

まず、驚いたのは主人公を北条義時にしたこと。

日本史に興味がない人だと、まず名前が出てこない人物です。

ちなみに「鎌倉殿の13人」とほぼ同時代、治承寿永の乱(源平合戦)から承久の乱までを描いた大河ドラマとしては、1979(昭和54)年の「草燃える」がありますが、この時の主人公は北条政子

源平合戦の主役は頼朝、義経であり、承久の乱で坂東武士たちをまとめたのは尼将軍北条政子というイメージが従来非常に強く、義時はあくまで脇役のイメージが強かったと思います。

ちなみに、「草燃える」で義時を演じたのは、「鎌倉殿の13人」で清盛入道を演じた松平健

当時、20代中頃だったはずですが、すごい貫禄。。。さすが上様!

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閑話休題

 

ここであえて、従来わき役だった義時を主役に据えるあたり、歴史マニア三谷幸喜ならではのチョイスと心の中で喝采を送らざるを得ませんでした。

そして、陰惨な権力抗争が繰り返され、御家人たちによるルール無用の生き残りゲームが果てしなく続く殺伐とした時代を、群像劇の第一人者である三谷幸喜の脚本でドラマ化されることに、無上の喜びと期待を感じるとともに、不安もありました。

舞台となる平安時代末期から鎌倉時代の初め頃は、平清盛源頼朝義経北条政子くらいしか有名人がいない時代。

しかも、御家人同士のどろどろしたエゴがぶつかる、血みどろの抗争劇が連続する展開になることは間違いなく、はたして鎌倉時代に詳しくない人に、興味を持って視聴してもらえるのか、「平清盛」のようになってはしまわないかという思いがありました。

しかし、そんな心配は放送が開始されると全くの杞憂に終わります。

序盤、伊豆の片田舎で平和に暮らしていた北条家のコミカルなホームドラマは、佐藤浩市が好演した上総広常の誅殺を皮切りに一転し、裏切り、騙し討ちが連続する凄惨な抗争劇と化しましたが、ドラマの人気が衰えることはありませんでした。

それどころか、魅力的なキャラとして丁寧に描かれた登場人物が無残に退場していく度に、SNS上ではその話題が大いに盛り上がりを見せました。

視聴率も日曜午後8時台はおおよそ11~13%を維持しており、録画視聴やBS、ネット視聴も多くなっている昨今の視聴スタイルを考えると、悪くない数字だと思います。

「鎌倉殿の13人」は、「平清盛」「いだてん」で固まりかけていた、「大河は戦国と幕末しか受けない」というジンクスを、見事に打ち破ってくれました

 

「鎌倉殿の13人」のお陰で、それまで一般には無名に近かった、上総広常や三浦義村和田義盛といった鎌倉武士たちにも光が当たり、ドラマを通じて鎌倉時代に多くの方が親しんでくれたことは、ずっと鎌倉時代が好きだった身としては、本当に嬉しい限りです。

 

平清盛」は登場人物の人生が交差する珠玉の群像劇

好評な「鎌倉殿の13人」を見ていて常々思うことは、やっぱり平清盛」は面白かったよな!ということ。

まず、松山ケンイチ演じる清盛は、従来の清盛像を完全に破壊する斬新なものでした。

白河院(演:伊東四朗)の落胤という複雑な出生と、「王家の犬」と武士を蔑む朝廷に忠節を尽くす父忠盛(演:中井貴一)への反発から、荒れ放題だった少年期。

父の真意が「武士の世を作ること」と知り、その夢を引き継いで実現するために奮闘する青年期。

保元の乱平治の乱を勝ち抜いて権力を手に入れ、理想の実現に向けて突き進むも、後白河院(演:松田翔太)と対立し、急進的な改革と強引な手法から、やがて一門の理解すら得られなくなり、孤独と苦悩を深める晩年。

従来は、傲慢な独裁者として描かれることが多かった清盛を、繊細で迷い、悩む、孤独な革命家として松山ケンイチは見事に演じきったと思います。

 

そして、登場人物間の濃密すぎる愛憎劇も大きな魅力でした。

特に王家(天皇家)のそれはすさまじかった。

日本史上、最も専権を振るった治天の君(=天皇家の家長)の一人である白河院は、孫の鳥羽院(演:三上博史)の愛妃璋子(演:檀れい)と密通し、生まれた崇徳院(演:井浦新)を皇位に就けます。

孫の妃と密通って、言葉を失うような傍若無人ぶりですが、伊東四朗扮する白河院の化け物っぷりも、ドラマ序盤の大きな見どころです。

きっと今なら「#全部大泉のせい」ならぬ「#全部白河院のせい」で、SNS上で祭りになったと思います。

白河院の死後に鳥羽院は璋子への愛と憎しみから、崇徳院を「叔父子」と呼んで疎んじ、これが後に朝廷を二分する保元の乱への伏線となりました。

その後、保元の乱に敗れて讃岐へ流刑となった崇徳院。同母弟の後白河院に和解を願って写経を送りますが拒絶され、実子の死を知らされた崇徳院はついに絶望し、「日本国の大魔王とならん」と絶叫して悶死します。

井浦新が演じた鬼気迫る最期は、大河史上屈指の怨念に満ちた名シーンでした。

 

また、清盛を中心とした登場人物の人物描写の緻密さも大きな魅力です。

ライバルとなる源義朝は、清盛と同じく武家の棟梁、河内源氏の御曹司とはいうものの、父の代までで家が没落しており、祖父、父の代で朝廷内に地歩を固めた平家の清盛とは違って、一からのし上がってやろうというギラギラとした野心溢れる姿を、玉木宏が好演しました。

清盛と同い年の歌人、佐藤義清こと西行(演:藤木直人)は、清盛と同時期に北面の武士を務めていた史実から、同僚であり、親友というドラマならではの設定で、孤独を深める清盛が本音をぶつけられる数少ない人物として描かれ、等身大の清盛の感情を引き出すシーンの数々がとても印象的です。

挙げだすとキリがありませんが、摂関家藤原忠実(演:國村隼)とその子忠通(演:堀部圭亮)、頼長(演:山本耕史)兄弟の相克や、清盛と父忠盛の実子である弟家盛(演:大東駿介)、頼盛(演:西島隆弘)との微妙な関係、父清盛と主君後白河院との間で板挟みとなって苦悩する平重盛(演:窪田正孝)など、登場人物の人生が複雑に絡み合って展開される群像劇は、個人的には歴代大河の中でも指折りの良作だったと思っています。

 

平安末期の「空気」を感じるリアルな描写

さらに「平清盛」で特筆したいのは、その「リアル」な描写です。

砂塵が舞い、疫病や飢饉で困窮した人々であふれる京の町並みからは、荒廃した平安末期の空気が漂い、くたびれた冠に埃まみれの衣装を身にまとって地を這いずる武士たちの姿は、従来描かれたような煌びやかな大鎧で身を包んだ武者姿とは、一線を画すものでした。

当時の武士は、天皇家や朝廷の貴族に従属する存在で、王朝貴族からすればほぼ庶民と変わらない「賎しき」存在であり、「平清盛」での武士、とりわけ御所への昇殿を許されない地下人の武士たちの姿は、中世武士の実像を見事に映像化したものと思います。

もっともリアルな風景や武士の描写については、当時の井戸兵庫県知事が「画面が汚くチャンネルを回す気にならない」などと一部酷評する声も上がりました。

しかし、「平清盛」は「龍馬伝」以降強まる、時代表現におけるリアリティ追求の一つの到達点で、知事に酷評された土埃舞う市井のシーンも、くたびれた武士たちの装束も、「平清盛」から導入されたフルハイビジョンの高精細映像で、その時代の空気を圧倒的な迫力と存在感で伝えたいという、スタッフの意気込みを感じるものでした。

 

あと、リアルといえば、当時の武士たちの「野蛮性」も非常によく描かれていたと思います。

平安末期から鎌倉時代にかけての武士は、江戸時代以降の武士たちのような行儀のよい人々では全くありませんでした。

何事も力づくで、些細なことで簡単に人を殺す、北野武監督の「アウトレイジ」に出てくるヤクザを数倍凶暴にしたような存在でした。

※中世武士の実像については下記の記事に詳しいので、ぜひご一読ください。

特に劇中、義朝の弟、源為朝(演:橋本さとし)と長男義平(演:波岡一喜)の凶暴性と剛勇ぶりは、これぞ中世武士というべき荒々しさで、保元の乱平治の乱での二人の活躍は一つの見せ場でした。

 

当時の視聴率による評価は不当!?

ところで「平清盛」は放送当時、日曜午後8時台の視聴率が低調だったことが、盛んににマスコミで取り上げられ、「低視聴率=つまらない作品」というレッテルが広められてしまったと思います。

この「視聴率」による評価は本当に妥当だったのでしょうか。

かつては平均視聴率が20%を超えるのが当たり前だった大河ドラマですが、ビデオリサーチの調査結果を見ると、2010年の「龍馬伝」以降、日曜午後8時台で平均視聴率が20%を超えた作品は、実は一つもありません。

平清盛」以降、日曜午後8時台で平均15%以上を記録した作品は「軍師官兵衛」と「真田丸」しかなく、「平清盛」はたしかに以降の作品の中でワースト2位の平均視聴率ではあるものの、突出して低い視聴率というわけではありません。

近年の大河ドラマはBSでの放送もあり、2010年代急速に普及したHD録画プレイヤーで、録画で楽しむ視聴者が増えたことで、日曜夜8時台のリアルタイム視聴率が急速に減った時期に「平清盛」は放送されました。

現在でこそ、録画視聴者の視聴率である「タイムシフト視聴率」が集計されていますが、一般に公開されたのが2015年からで、「平清盛」放送当時はリアルタイム視聴率だけでマスコミは作品を評価していたのです。

一方、視聴率以外の評判でいえば、twitterのトレンド動向で「平清盛」は2012年に話題に上がったドラマとして、「GTO」や「梅ちゃん先生」を抑えて堂々の1位。

視聴率などドラマの本質的な部分とは無関係なところで評価されたことに、筆者のようなコアなファンが強く反応したこともあるでしょうが、良くも悪くも人々の注目を浴びた作品であったことは間違いがなく、当時視聴率が悪かったことを理由に「つまらない作品」と決めつけることは適当ではないでしょう。

最近でも、こんなツイートが投稿されてました。

筆者の中では間違いなく史上最高の大河の一つです。

「鎌倉殿の13人」を見た後だとさらに楽しさが倍増する

最近個人的に録画していた「平清盛」を改めて見直すと、「鎌倉殿の13人」で話題となった俳優さんたちが、意外な役で出ていることに気付きました。

まずは、坂東武者の鑑・畠山重忠を演じた中川大志は、「平清盛」では少年期の源頼朝を演じています。

平治の乱で初陣を飾るも、敗退して捕らえられた後、清盛の前に引き出されて対面するシーンが印象的でした。

当時13歳ですが、まだまだ幼さが残るものの面影はあります。

 

三代将軍源実朝を好演した柿澤勇人は、治承寿永の乱の火蓋を切る以仁王

当時25歳ですが、こちらはほぼお姿が変わりません。

「鎌倉殿!」と思わず呼んでしまいそうなお姿で、実朝と同様に大変繊細な以仁王を演じていて、「鎌倉殿の13人」で木村昴が演じた剛毅な以仁王とは対照的でした。

挙兵するも敗れて、源頼政(演:宇梶剛士)に巻き込んでしまったことを詫びるシーンがとても印象的です。

 

「鎌倉殿の13人」でブレイクした善児こと梶原善は、清盛の弟、頼盛に近侍する平宗清。こちらはアサシンではなく、忠実な平家の家人でした。

 

そしてなんといっても山本耕史が演じた藤原頼長インパクトがすごい。

有能ながら古式にのっとった苛烈な政治で、悪左府と渾名された頼長を、清盛の弟、家盛を衆道で篭絡するなど、とても妖しく演じました。

※ちなみに、頼長が自らの政治権力強化のため、積極的に味方としたい人物と衆道関係を結んだのは、自身の残した日記に遺されており史実。

 

また、「鎌倉殿の13人」の前時代を描くという点でも、「平清盛」を見ると、武士たちがどうして公家の支配を排除し、自分たちの時代を築こうとしたのかが、とてもよく腑に落ちます。

放送当時、治承寿永の乱前後の歴史は非常にマイナーで知名度も低く、頼朝や義経といった源平争乱のヒーローが活躍する前の時代は関心も低くて、一般視聴者に受け入れられにくい面もあったかと思います。

しかし、「鎌倉殿の13人」を視聴して、中世武士の「沼」にはまった方々なら、その前時代にもきっと興味を持って触れていただけるに違いありません。

 

緻密な映像描写に加え、吉松隆の重厚な音楽(個人的には梁塵秘抄の今様「遊びをせんとや生まれけむ」のフレーズが印象的な主題曲がお気に入り)は、本放送から10年以上経った今見ても十分に満足いただける内容なので、見たことがない方にはぜひ一度見てご評価いただきたい作品です。

 

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